文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究」平成23年度~27年度

動的・多要素な生体分子ネットワークを理解するための合成生物学の基盤構築(合成生物学)

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領域概要

研究概要(和文) Abstract of Research Project (English)

現状と本領域の目指すところ

細胞を、多数の相互作用する生体分子ネットワークからなるシステムとして捉える「システム生物学」と呼ばれる研究が行われているが、全てのネットワークが十分には理解されてはいないため、真の意味での「システム生物学」は完成しておらず、現状では、遺伝子、mRNA、代謝物などの大量のデータを「眺めて解析する生物学」にとどまっている。

一方、このような生体分子ネットワークを「眺めて解析する生物学」から、「創って解析する・利用する生物学」を目指し、2000年頃から米国で合成生物学という研究が行われている。「創って」と言っても「無から生物を創る」ことを指しているのではない。サイエンスの面では、同定済みの相互作用する生体分子を組み合わせた人工遺伝子回路を設計して、振動やスイッチなどの特定の細胞内現象を再現させようとする試みがなされている。また、応用面では、別の生物由来の酵素遺伝子を複数組み合わせた人工代謝経路を設計し、その生物が本来生産できない物質を大量生産させる試みが行われている。しかしながら、人工遺伝子回路や人工代謝経路は小規模であり、trial and errorで構築されているのが現状であり、合成生物学を展開するための技術基盤は未だ確立されていない(図1の現状を参照)。一方、生体分子ネットワークは、ホメオスタシスと環境適応の両面を持っており、現在広く行われている一つまたは少数の遺伝子の過剰発現・破壊を行っても、ネットワークの応答に変化がないことが多い。このため、生体分子ネットワークに積極的に働きかけるような振動やスイッチなどの機能を持つ人工遺伝子回路を導入し細胞応答を詳細に解析する研究、ES細胞、iPS細胞に様々な分化誘導因子を人工遺伝子回路で導入することで分化系譜を探る研究、細胞のセンサータンパク質と組み合わせ外的環境に自ら適応して物質生産を行わせる細胞工場を実現する研究、などを通じて生物をより深く理解し、広く利用することが可能になると考えられる。

そこで本領域では、生体分子ネットワークをより深く理解し、利用するために、①人工遺伝子回路や人工代謝経路の探索・設計を行う情報科学と、②無細胞系(in vitro)で回路・経路構築を行う工学と、③細胞内(in vivo)へ回路・経路を導入する分子生物学の技術を結集し、有機的に連携することで、世界に先駆けた合成生物学を展開するための技術基盤の構築を目指す。


【図1】

何をどこまで明らかにするのか

代謝と遺伝子発現を大規模かつ複雑に制御するには、下図のように、動的な(時間的に変化する)人工遺伝子回路設計と多要素の回路設計のための要素技術が必要となる。また、人工遺伝子回路のデザイン・解析のためには情報科学、無細胞系(in vitro)では工学、細胞内(in vivo) では生物学に基礎を持つ要素技術が必要であり、これらの要素技術の結集が合成生物学の基盤構築には必要である。

本領域では、まず、動的で多要素な人工遺伝子回路を構築する。次に、それを利用して、万能細胞の分化誘導システムの構築、生体分子ネットワークの理解への適用を試みる。その結果、合成生物学の技術基盤を構築する。


【図2】

期待される効果

また本領域は、情報科学、工学、分子生物学の技術結集を図るもので、既存の学問分野の枠に収まらない新興・融合領域の創成を目指すものである。お互いの専門領域に踏み込んだ共同研究を展開することで、出身分野にとらわれない研究者の意識改革と人材育成にも資することになる。したがって当該領域の研究発展が他の研究領域の発展に大きな波及効果をもたらすことが期待される。

動的・多要素な生体分子ネットワークを理解するための合成生物学の基盤構築(合成生物学)